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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1835号 判決

控訴人

アンジエロ、セオドル、ボロナキス

代理人

馬塲東作

外二名

被控訴人

シンガー・ソーイング・メシーン・カンパニー

日本における代表者

ウイリアム・ピーワード

代理人

古賀正義

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実〈省略〉

理由

原裁判所が控訴人の仮処分申請を却下するにつき判示した事由、すなわち、被控訴会社が控訴人に対してなした解雇の意思表示の効力についての準拠法が米国法であるところ、米国法上みぎ解雇の意思表示を無効と解すべき事由がなく、かつ法例第三〇条の規定する制約を本件解雇の意思表示に適用すべきでないとすること、これらの点についての当裁判所の判断は、つぎに付加するほか、原判決理由中の説明と基本的に同一であるから、ここにその理由の全文を引用する。

控訴人がその主張に添うものとして引用する東京地方裁判所昭和四〇年四月二六日決定の事件は、労働組合法第七条第一号の規定を援いて解雇の効力を否定したものであつて、事実関係を異にする本件に適切でない。

また控訴人は、原審における本人尋問の結果を敷衍して、当審における本人尋問においても、被控訴会社との間の労働契約が長期間存続することを予期し、可及的速かに任務に就く必要上、その米国内に有した財産を短期間中に処分することにより損失を受け、しかもその売得金は、日本における家族共同生活準備のため大半を費消した旨を述懐する。しかし、かような損失ないし失費は、外国に赴任する場合、多かれ少かれ免かれないことであつて、しかも〈証拠〉によれば、みぎの損失については、控訴人において被控訴会社から補償を受けていることが認められるばかりでなく、この一事によつても、被控訴会社自らも、控訴人を雇入れるに当り、一年数ケ月後に控訴人を解雇するに至るべきことを予期していなかつたものと推認することができる。してみれば、いま被控訴会社の控訴人に対する解雇の意思表示によつて、控訴人がその主張するような犠牲を払つたにかかわらず、日本永住の期待が潰えたとしても、米国法上いつ、なんどきでも被傭者を解雇することができるとされる以上、やむを得ない結果であるとしなければならない。そうしてまた、この結果がわが国の私法的労働秩序に害を及ぼすものということができない。

以上説明したところによつて、被控訴会社が控訴人に対してなした本件解雇の意思表示は、その余の判断をするまでもなく有効であるから、本件仮処分の申請は、被保全権利の疎明がないことに帰し、これを却下した原判決は正当である。よつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条・第九五条・第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。(中西彦二郎 兼築義春 稲田輝明)

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